オーダーメイドジーンズ DENIM MADNESS(その1)
2:23 // 0 コメント // yamyam // Category: ファッション , 注目記事 //
今回ご紹介するのは、「DENIM MADNESS」(デニムマッドネス)石野直人さん。
デニムマッドネス 石野直人さん |
オーダーメイドジーンズをつくられています。
ジーンズといえばおしゃれの定番。
ところが、サイズ、色、かたち、生地…これらの全ての要素に納得できる一本にはなかなか出会えません。何本買っても、「なんか違う」の繰り返しでどんどん数だけ増えていったり。
そんな、「自分に一番似合うジーンズ」を求めている人に紹介したいのがデニムマッドネスです。
石野さんは、ジーンズを穿くシチュエーション、趣味、好きな食べ物、好きな音楽など、さまざまな質問を通して、お客さんの要望をすくいあげ、提案します。そしてそれに対してお客さんも自分の思いをぶつけます。このような、音楽でいうセッションのようなコミュニケーションから世界でひとつだけのジーンズが生まれます。
そこに込められた思いを、石野さんのこれまでの経歴まで辿りながら、探ってきました。
インタビューの内容が濃いものになったので、3回に分けます。
その1 : デニムマッドネスについて。
その2 : デニムマッドネスを実際に愛用されている方の声。
その3 : 質問とこぼれ話。
それでは始めたいところですが、
その前に皆様にお断りしておかなければいけないことがあります。
それは、このインタビューが一年半近く前に行われたということです。
掲載が遅れた原因はひとえに私の責任にあります。
石野さんが奇特な方でなければ実現しませんでした。
石野さん、ご協力いただいた皆様、すみませんでした。
そして、快く掲載をお許しいただき、感謝いたします。
それとひとつ、
石野さんより、読んでいただく皆様にメッセージがあります。
以下の通りです。
「有難くも、本当に等身大の自分として、友達同士のような関係性でライターさまとお話させていただいた故に、私の言葉が全体的にあまりにもフランクな点が、読者さまを不快にさせてしまうかもしれません。その点はご容赦くださいませ」
実際、石野さんは初対面にも関わらず、私たちに友達のように接してくださいました。
記事にもその雰囲気が良い意味で出ているのではないかと思っています。
前置きが長くなりました。
それでは始めます。
よろしくお願いします。
ー洋服が元々好きだったんですか?
石野「そうです。姉貴がいまして。女の子やからスカート履くじゃないですか。それがすごい羨ましくて。スカート履いたりしてました。中性的とかじゃないんすよ。単に服の選択肢が女の人の方が多いってのがいいなと」
ーいくつぐらいのとき?
石野「保育園とか幼稚園とかそれぐらいのときですね」
幼い頃から洋服に興味を持っていた石野さんだが、大学は法学部に進学。卒業後は販売の仕事に。
石野「服めっちゃ売ってたんですけど、心の底から薦められるものを売りたいと思うようになって。ないんやったらとりあえずつくれるようになる勉強をしようと思って、大阪モード学園に4年行ったんですよ。特に職人になりたいと思ってではなく、行ったらなんか開けるやろぐらいの気持ちで」
最低限の勉強をして、その後は…という石野さんだったが、転機が。
石野「一年生である程度全アイテム習うんですよ。それで自分のためにジーパンをつくろうと思って。その時にすごく感動して。もう、すごいうれしくて。一人でつくって完成したとき、一人で泣いたんです。で、泣きながら踊ったんです(笑)」
ーどんなジーンズ?
「ローリングストーンズていうバンドが大好きで、『Sticky Fingers』ていうアルバムがあって。
「ローリングストーンズていうバンドが大好きで、『Sticky Fingers』ていうアルバムがあって。
ザ・ローリング・ストーンズ『Sticky Fingers』ジャケット |
アンディーウォーホルがジャケットをデザインしてて。前チャック晒しのスキンのジーパン初めてつくったんですけど。自分の中で思い描いていたものが、ある程度近いものができて。それに強度もある程度しっかりしたものができたから、ちょっとこれつくっていこうと思って。勉強にもなるし」
オーダーメイドジーンズを始めるきっかけ
これまで製作してきたジーンズの数々 |
石野「だけど自分のためにつくるのに、5〜6本ぐらいで飽きてしまって。だけどそれを履いてたら、友達とかに『俺のもつくってくれや』て言われるようになって。それが始まりです」
ーそれで友達の口コミでポツンポツンと…じゃあそこで頑張ってみよう、ドーンっとやろうと思ったきっかけは?
石野「専門学校4年生のとき。卒業制作があるんですけど、学校が勝手にチーム組むんですよ。そのチームで共同制作やれって。一人一体作品をつくるんですけど。絶対やりたくなかったんですよ。なんでかっていうと、素材から何から全部話し合って決めるじゃないですか。僕、デニム以外縫う気ないんで。だからといってデニムを全員に押し付けるのもイヤやし。他の生地押し付けられて適当なもんつくるのもイヤやし。
手前の白いものが仮布段階のジーンズ |
断ったんですよ。成績はすごい下がるんですけど。で、やらない分、逆に個人でファッションショーしようと思って。初めてイベント会場借りて、ファッションショーしたんですよ。初めて「DENIM MADNESS」ていう名前を言い出して。お客さんも必死に呼んで。周りの友達も手伝ってくれて。もう、すごく達成感というか。ほんまにやってよかったと思ったんですよね」
この調子でデザイナーへの道を進んでいくかと思われるが…石野さんは就職活動を始める。
石野「学生時代はすごく安くしてたからオーダー入ってたけど、それを高くしたときにどうなんかと。その金額を取るのに自分の腕が成り立ってないんじゃないかと思って。そのために一回就職をして、プロの縫製技術とか、プロがデザイン出すのにどんだけ苦労してるかとか。それを見ときたいと思ったんです。
尊敬できるブランドが、「KAPITAL」(http://kapital.jp/)て岡山の会社であるんです。そこに面接を受けに行ったんですよ。ファッションショーの写真を全部持っていって。そしたら、デザイナーさんに、『何で自分でやらへんの?』て言われたんですよ。そのときに答えに困って。何でなんやろって思ったんですよ。でもそれが逆に、『自分でやれんのちゃうん』ていう風に後押してくれてんのかなって僕はとらえて。仲良くしてもらってた雑貨屋さんにサンプル1本置かせてもらって、そこからお客さんもらうっていうシステムでフリーでやりだしました」
使い込まれたミシン |
ー今まで続けてこられて、何か大きく挫折(気持ち的にも経済的にも)のようなものはありますか?
石野「周りに助けられてるっていうのはすごくあって。結局美容室とかと一緒で、飛び込みってないじゃないですか。めっちゃ評判がいいとか、友達に勧められたりとか。ジーパンの場合は毎日履いてもらえて、『それ、変わってんなあっ』てとこから次のお客さんが来るから」
ー歩く広告になってくれてるってことですね。
石野「お客さんがお客さんを連れてきてくれるんですよ。一緒に来てくれて、みんなでしゃべるみたいな。それがすごく面白い」
ーそんなにうまくいくものなのでしょうか。もちろん才能っていうものがあっての話ですが。
石野「でも、今年の1月にオーダー2本だけやった月があって。死ぬ程焦りましたね。身近な友達にめっちゃ安くするからつくらせてくれって言って。あとはその辺ぐらいからイベントに積極的に参加するようにしたんですよ。萬福寺のイベントとか、ツムテンカクっていう通天閣でやってたイベントとか。僕自身が広告塔っていったらあれですけど、このひとは普通のジーパンつくらへんやろなっていう、それを分かってもらわないかんなと。やっぱりオーダーって受け身なもんやし、ものづくりって閉じこもるもんやけど、表出んなあかんねんなって。そしたらオーダーをポーンといただいたりとか。
壁には数々のイベントのフライヤーが |
挫折といえば、専門学校時代に思いっきり挫折をしたんですよ。服屋で店長してて、スタイルコーディネーターっていう、売り方を教える仕事をしてたんですよ。ちょっとだけ偉いさんみたいな役職をさせてもらってたんですけど。そっからやめて、10コ下の子らと同じ机並んで勉強するってなったときに、僕27で入学してるから、周り18歳じゃないですか。そのときに、なんでこんなガキと一緒に勉強せんなあかんねんっ(笑)
でも2年目で開き直りましたね。楽しかったね〜。年齢とかじゃなくて感覚でしゃべれたらいいんやと。そこで頭打ちました、いちばん。その感じが僕にとってはすごく大きかった。10コ下の人らと楽しく過ごすっていうのは全然価値観も違うし、感覚も違うけど、服すきってことに関しては一緒やから。で、逆に僕が刺激して、そのひとは良くなって、人と人でね、付き合っていけたらいいかって思えたんですよね。1年かかりましたけど」
でも2年目で開き直りましたね。楽しかったね〜。年齢とかじゃなくて感覚でしゃべれたらいいんやと。そこで頭打ちました、いちばん。その感じが僕にとってはすごく大きかった。10コ下の人らと楽しく過ごすっていうのは全然価値観も違うし、感覚も違うけど、服すきってことに関しては一緒やから。で、逆に僕が刺激して、そのひとは良くなって、人と人でね、付き合っていけたらいいかって思えたんですよね。1年かかりましたけど」
オーダーメイドジーンズができるまで
ーまず何から始まるんですか?いきなり採寸をする?色々とお話をする?
石野「まあ簡単に言うたら、例えばデニム好きなひとの中でも、めっちゃ生地が好きなひととか、こんなデザインが欲しいっていう方もいらっしゃいますし、バラバラなんです。
デザイン重視の場合は、デザインから決めていくんですよ。そうじゃないと、そのデザインに適していない生地を選んでしまって、例えばめちゃくちゃ細いスキニーが欲しいのに、全然伸びない生地でつくってしまうと、かっこいいかもしれんけど履きにくいので。なので、デザインを重視される方はデザインの話からしますし、生地にこだわる方には生地から見ていただきます。
デザイン重視の場合は、デザインから決めていくんですよ。そうじゃないと、そのデザインに適していない生地を選んでしまって、例えばめちゃくちゃ細いスキニーが欲しいのに、全然伸びない生地でつくってしまうと、かっこいいかもしれんけど履きにくいので。なので、デザインを重視される方はデザインの話からしますし、生地にこだわる方には生地から見ていただきます。
さまざまな種類の生地がある |
『とりあえずやってみてよ』みたいな方には、僕からデザイン提案をさせていただく。『こんなん似合うと思いますよ』と。あとはお客さんのニーズですよね。ここには普段何を入れるからポケットが使いやすくてとか。自転車乗るから膝周りはラクにしてほしいとか。そういう話もしながらデザインを決めていって…僕の中では話し方って全く決まってないんです。
1回目はめっちゃ話込むんですよ。1~2時間。この前は4時間半しゃべりました(笑)でも2回目以降は一瞬で終わるんです。好きな音楽とか好きな映画とか、趣味とか。(デザインをする上で)迷ったときに、あのひと、コレすきなんやったらコレすきやなってつながる共通の言葉がひとつある。それが分かると制作過程で迷わなくなる。思い切ってやれる。
セッションですよね。ライブみたいな感じで。お客さんの中から生まれてくるクリエイティブな発想とかをもらうと、僕の中のデザインの引き出しもひとつ増える。だから将来的にはオリジナルのブランドにしようと思ってるんですよ。だけどそこに行くまでのプロセスとして、僕はジーンズ屋さんで修業したりとか、ものづくりの修業をしたわけじゃないから、逆に1本1本つくっていこうと。おそらく誰もやってないようなプロセスやから、絶対面白いもんが出来上がるやろうと思ってます」
こういう経緯でできたブランドやからこそ、ほんまのスタンダードなものができる
ーではそのオリジナルはどういうものになるのでしょうか?
石野「僕はこういう経緯でできたブランドやからこそ、ほんまのスタンダードなものができると思うんですね。おおげさな言い方ですけども。今のジーンズって、よりファッション、新しいシルエットとか、装飾的な部分とかっていう方が重視されてるけど。僕はちゃんとしたライフスタイルというか、人や目的に沿った延長に絶対それ(オリジナル)はあると思うんですよ」
ー面白いですね。色々やってみた上で、ものすごくオーソドックスなものができるという。その中にもデニムマッドネスのにおいはどこかにあるという。
アバンギャルドなものとか、前衛的なものとかも僕大好きやけど、デザインっていうものは見た目のかっこよさも大事やけど、気持ちいいかとか、僕自身のサービスも含めて、できるものやから。穿き心地がいいっていうのも勿論やし、生地もそうやし。その全てのエッセンスが詰まったものができたときに、僕は自分のオリジナルやって言い切れると思う。それが目標です」
お客様の期待を越えるーオーダーメイドでものをつくっていくときに、お客さんとのコミュニケーションのなかで、一番大事にしてることっていうのは何ですか?
ノートに書き留められたメモ |
石野「お客さんの期待を裏切るっていうことですよね。良い意味で。『言われた通りそのまんまつくりました』やったら、僕がつくる意味がないんですよ。それはほんまに仕立てのかっちり縫える職人さんにやってもらった方がいいと思うんです。
例えばポケットのなかに入れるスレーキっていう生地があるんですけど、その人が好きそうなスレーキを選んだり、柄ものとか。例えばそこに見えてるズボンとかやったら、中がボーダーとかなってるんですけど(水色とピンクのボーダーでした)。表からは見えへん部分。話してるときはそういうことは一切言わないんですけど。このバランスですよね。やりすぎたらジャマやと思われてしまうし。そこは一番難しいですね。でもそれをしないと絶対リピーターにはならないと思うんで」
「ものづくりって全部そうやと思うんですよ。メシ食いにいって、トマトソースのパスタを頼んで、今まで食べたことのあるトマトソースのパスタが出てきたら、もう多分行かないですよね。やけど、そのお店にしかない下味の付け方をしてたりとか、こんなに酢使うんやとか(笑)ちょっとしたさじ加減。ひととは違うスパイスを入れる、そこを一番大事にしてます」