絵はんこ作家 カキノジン
10:54 // 0 コメント // MEKKEkun // Category: アート //大阪を拠点に活動されている絵はんこ作家のカキノジンさんをアトリエに訪ねた。
「判子」といっても色々な種類がある。ゴム製のもの、木で出来たもの…で、カキノさんの場合は、石を彫る。石のはんことは?書道の作品などに押されている赤い正方形の印といえば分かりやすいかもしれない。正式には篆刻(てんこく)と呼ばれている。
そんな篆刻の「お遊びバージョン」が、カキノさんの取り組む絵はんこだ。既製の判子イメージから程遠く、ユーモアとアイデアにあふれている。新しい。
作品は、著書「ガリガリ絵はんこ手帖」を読んで欲しい。
(一部は、アマゾンの「なか見!検索」可能 … こちら)
例えば、同じはんこの上面と底面に彫られた絵柄がセットになった、ニコイチはんこシリーズ。
さて、そんなカキノさん、作家であると同時に、絵はんこ作りの楽しさを普及させるべく「ガリガリ絵はんこ教室」というワークショップを開いて、全国を飛び回っている。
(下の写真は生徒さんたちの作品ホルダー。ほんの一部)
下は4歳から上は83歳のおばあちゃんまで、全国で7000人以上は教えています。途中からハンコ部を立ち上げまして、教室に来てくれた生徒さんを半ば強引に部員にさせて、もう5500人を超えてます。ちょっとした宗教より多いかもしれません。(笑)たまに部活動もしておりまして、お花見とかクリスマスパーティーとか…天王寺から出ている路面電車を貸切りまして、ハンコ部の動く大宴会っていうのも開催しました。広島でも路面電車を貸し切ったりと、全国で部活動をしています。
山口県でボーリング大会をした時は、陶芸家さんに「はんこ部オリジナル優勝カップ」を萩焼きで作ってもらいまして、大人が本気で遊ぶ子供会って感じでやってますねぇ。
「ガリガリ絵はんこ教室」を始めたきっかけを聞いてみた。
高校を出て、ヴィレッジバンガードで働いていた頃、店のオフィシャルのフリーペーパーを作らせてもらっていたんです。それを、カフェや雑貨屋に配布し回っていた時に知り合った方から「絵はんこ作っているなら、教室で教えてみないか」って声をかけられて…それからですね。これまでに国内で31県、130ヶ所くらいに行ってます。あとは北海道と沖縄県へ行ければ、各地方ほぼ制覇できたといえるんじゃないでしょうか。
依頼があればどこにでも行きます。半分以上は招待いただいたオーナーさんの所に泊めてもらっていますかね。基本は地の物を食べて、地のお酒を飲んで…。食べ物でいうと各地のおいしい物は、相当食べ尽くしてます。行った先々で呼んでいただいたオーナーさんがご馳走してくれるんです。2〜3日で教室を移動していくと、あっちでもこっちでもと毎晩宴会です。全国に行くようになって5年、10数キロ太りました(笑)。
でも、最高です。日本で一番しあわせじゃないですかねぇ。
==「ガリガリ絵はんこ教室」体験==
そんな「ガリガリ絵はんこ教室」。実際のところ、どんな風にされているのだろうか。ということで、お願いをして特別に教室を開いてもらった。普通なら1回あたり10人程度に教えているだというのに、今回の生徒は僕ひとり。贅沢だ。
彫る絵柄は、決めてきた。このブログのキャラ「めっけ君」だ。
適当な大きさで描いた下絵を彫る石の大きさに合わせて縮小or拡大コピーする。
では、はじめまーす。
えー、石を彫っていくわけですが、意外とザクザク彫っていけますので大丈夫です。
まずは、下絵をこの石に写していくわけですが、はんこなんで逆にしないといけません。
そこで、今日だけ・特・別・に・画期的な方法を伝授したいと思います。
先程コピーした絵柄を、石の真ん中に合わせてテープで固定していってください。
石と紙の間にスキマが開かないようにビッタリと…。
そして、マジックインキで上からササッと、なぞっていってください。
こちら、今年で55年のロングセラー、グッドデザイン賞受賞のマジックインキで〜す。
上から軽く押さえつけると…コピーのトナーがマジックインキの溶剤で溶け出して、自動的に石に写り込むという、はんこ業界に古くから伝わる伝統の技でございます。
はいっ、ここが、この教室で一番盛り上がるポイントでございま〜す。
板についた芸人口調。教室トークに笑いを誘うネタを詰め込んでいる。
濃い色だとインクの色が石に写ってしまって見えなくなってしまうので、一番薄い黄色を使うのでございます。あまり見かけない色ですから、もし黄色のマジックインキを持っている方がいると、それはハンコ彫りだと思って…間違いありませんっ。
ハイ。こんな…ちっちゃいのもありま〜す。(コトン)
と、言って出してきたのが、マジックインキのミニレプリカ(実はただの消しゴム)。
そんなコネタを挟みつつ教室は和やかに進行してゆく。
教室の開かれる場所は、各地方のカフェとか雑貨屋さん。必然的に生徒の割合は女の子が多くなるのだとか。だから、なるべく柔らかい石を用意しているようだ。今回使うのは「高蝋石」。柔らかいとは言うものの、見た目は光沢もあり硬そうに思える。ホントに彫れるのか?
専用の万力で自分が彫りやすい高さに固定して、外側の広い所から彫ってゆく。
使うのは専用の彫刻刀(印刀)。大・小・尖っているもの、3種類ある。時には粗めのサンドペーパーなんかも使ってしまう大胆さ。臨機応変。
実際に彫ってみる。ガリ…ガリガリ。なんとも手に心地良い感触。小学生の頃、図工の時間に木版画を作らされた記憶が浮かぶが、木の感触とは全然違う。石ってこんなに簡単に彫れてしまっていいのか?ちょっと嬉しくなってくる。
ガリガリ。「いいですねぇ。」
ゴリゴリ。「相当順調です。」
カリカリ。「完璧です。」
ガ…。「あ、気にせずいきましょう。」
ガリッ。ガリッ。「難しいところがあったら言ってくださーい。」
カキノさんは、こちらの作業を見ながら、声をかけてくる。教えて、褒めて、なだめて、ハッパをかける。虫めがね、呼び鈴、スーパーマリオのチープなチャイム、巨大な指の形をした指サック…作業中にもコネタを放り込んで、笑いを取りにくる。
邪魔をしているわけではない、彫る作業を飽きさせないための工夫なのだ。
彫り始めて、修正をしつつ、1時間余りで完成。
作業過程を1分程度の短いムービーにしてみた。よく耳を凝らして見ていただくと、ガリガリという音が聞こえるはず。
教えるのはホントに楽しいですよ。
教室では、生徒さんも楽しそうに彫ってますねぇ。僕がこの授業を受けたいくらいです(笑)。
オーダーで彫って欲しいという注文も、しょちゅう言われます。一時は受けていたんですけど、今は、全部断ってます。簡単に彫れますから、是非教室にいらして、ご自分でって。
もともとアートとかには全く興味が無かったし、学校も美術系のものは何もかぶっていない。
自分がこんな風になっているのなんて想像もできませんでした。ビックリです。
大したことしてないんですよ、ほんとに。誰もやってないことをやってるくらいじゃないですか。
今は年に何回か個展やグループ展をしてイベントに参加してという感じですね。
とはいっても、自分の為に作品をつくるぞという意識は無いんです。見てくれるお客さんがいないと何も作りませんね。
個展をすることが決まってから、はじめて創作意欲が湧いてくる。どう面白がらせるか。どう楽しませるか。彫ってる時間より何を彫るかを考えている時間の方が全然長いです。
個展ともなると作品の数もありますから、彫り過ぎて指に水ぶくれができることもあります。
でも、ホリプロですから(笑)。
大阪人の特質なのか、求められようが求められまいが、常にボケるという姿勢をつらぬくカキノさん。
どこか飄々とした雰囲気をまといながら、人の懐にスルリと入り込む。
人見知りはしたことがないと言う。そりゃそうだ。
さて、今回訪ねたカキノさんのアトリエは、大阪西区・北堀江の味わい深い古ビル「鳥かごビルヂング」の中にある。いや、「あった」と過去形にしないといけない。アトリエ閉鎖の作業をされている中での取材であった。
今は、教室で地方に出てしまうことが多くて、ほとんど大阪にはいない。これまで延々と空家賃を払い続けていた状態だったんです。だから、ここは閉鎖。
教室を移動するのは電車を使っているんですけど、ちょっと大きめのクルマで移動できたら楽しそうだなぁって思うんです。駅のないような田舎にもいっぱい行きますから。クルマで移動して、クルマをアトリエ化しようかと…。今までクルマに興味なかったんですけど。つい、決意しちゃいました。
ペーパードライバーで運転したこと無いんですけどね(笑)。
「鳥かご」から飛び出して、まさに旅ガラス状況に拍車をかけようとしているカキノさん。アーチストというより、「はんこ芸人」と言ってもらえるのが一番ぴったりくると言う。笑いの都・大阪人代表として、モノを作ることの楽しさ、人を楽しませることの喜びを、たくさんの人達と直接関係しながら伝えていくという活動は、鳥かごを離れて次の展開を見せようとしている。
ちょっと冷んやりしている石から生まれる、ついついニンマリしてしまう絵はんこ。少しくらい下手っぴでも、それは彫った人の体温の現れだ。機会があれば是非マイ絵はんこ作りにチャレンジしてほしい。
次の大阪での「ガリガリ絵はんこ教室」は、11月か12月、年賀状作りのピーク期に開いてみたいとのこと。
最新情報は、カキノさんのホームページからどうぞ。
また、2010年10月30日(土)・31日(日)。堺市の大仙公園で開催される「灯しびとの集い」という、クラフトイベントにも出品するそうなので、カキノさんに会ってみたいという方は、是非。
(みっしり詰めて保管されているカキノさんの作品。重い。)
データーーーーーーーーーーー
カキノジン 絵はんこ作家
ホームページ : http://www.osakajin.net/
ブログ : http://jiin.blog87.fc2.com/
コンタクト : kakino@osakajin.net
著書 : 「ガリガリ絵はんこ手帖」新星出版社
文 福田浩一
撮影 今西一寿
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