BI・CI・CLASSICA (1)ヴィンテージ・バイク・ギャラリー
16:44 // 2 コメント // MEKKEkun // Category: 自転車 //□世間的には自転車を楽しむことがブームなのだそうだ。
エコとか、健康にいいとか、お洒落だとか、まぁ、とにかく自転車に乗って楽しむ人。ツール・ド・フランスとか、ジロ・デ・イタリアとか、国際的なロードレースで日本人レーサーが活躍し始めたこともあって、ロードレースを観て楽しむ人もいる。
そして、もうひとつ。ここに紹介するのは、自転車という「モノ」そのものを鑑賞するという楽しみ方だ。好きな人には堪らない類の自転車を扱う日本で唯一のギャラリーだ(博物館は別にすればだけど、たぶん間違いない)。場所は大阪・松屋町。
□BI・CI・CLASSICA(ビチ クラッシカ)。80年以上も前に建てられた古民家を再生して事務所にしていたイタリア人建築デザイナー、Luigi Velati(ルイジ・ヴェラーティ)さんが、事務所の1階を改装して造ったヴィンテージ・ロードバイクのギャラリーだ。オープンは、2009年8月。
展示されているのは1960~1990年を中心としたロードバイク。ほとんどがクロモリ(スティール=鉄)製だ。細身のシルエット。ホリゾンタルのトップチューブによって形作られるダイヤモンドフレーム。パーツのディテールにまで施されたデザイン。自転車のことをそれほど知らない人が見ても、そのただならぬ気品と雰囲気から、これらの自転車がスゴイものである事は感じられるのではないだろうか。
□オーナーであるイタリア人、ヴェラーティさんに話を伺った。(もちろん日本語で)
□ギャラリー開設のきっかけを教えてください。
ヴェラーティ■私が自転車を始めた70年代は、ほとんどの自転車がクロモリだったんです。だから、こういう年代の自転車が一番キレイに見えるし思い入れもあるんです。ディテール的にも美しいし、モノの作り方自体が美しい。私が感じる自転車の素晴らしさを、他の人にも知って欲しい部分もあって作ったんです。でも、ホントの話、自転車が好きでどんどん集めていく内に、家の中に入りきらなくなってきたもんだから…ね。
□そんな風に気さくに語ってくれるヴェラーティさんだが、ふと壁を見るとロードレースのゴールシーン、高々と両手を上げたレーサーの写真がある。そう、ヴェラーティさんだ。若い頃、イタリアのアマチュア・ロードレース選手をしていたらしい。
(右上の写真は、コルナゴ氏と、右下はロッシン氏とのツーショット写真)
ヴェラーティ■これは1977年。30年以上も前です。初めて乗った自転車はBianchi(ビアンキ)。でも、実はそれ、ニセモノのビアンキだったね。フレームにはビアンキと描いてるんだけど、中身はRossin(ロッシン)。チームはビアンキと契約していたけれど、高いレベルのこだわりをフレームに反映させるために、契約メーカーとは別にフレームビルダーさんと直接付き合っていたんです。選手として、それって普通のこと。チームで支給してもらったパーツを、優れた職人であるロッシンさんの工房に持ち込んで注文を出して自転車にしてもらう。見た感じはまったくビアンキにしてもらってね。だから、ニセモノ。
もちろん、そんなこと契約メーカーも公認でした。メーカーで作った自転車がレースで壊れてブランドイメージを落とすより、勝ったフレームにメーカーの名前が付いている方がいいわけですから。
大きいメーカーの工場に頼むと、自転車に対するこだわりが伝わりにくいし、作っているところも見れない、そして、誰が作っているのかさえも分からない。工房の職人さんなら、選手が伝えたいことがキチンと伝わる。顔が見えてるし、腕も分かるからね。でも、そんなやり方って、今じゃどんどん無くなってきているね。残念だと思うけど。
□展示されている十数台のバイクは、どれもが魅力的。「俺を見てくれ」とアピールしてくるのだが、どれを…。ギブアップするしかない。
筆者「これは是非観てもらいたい1台ってあります?」
ヴェラーティ「え〜?1台だけ???うーん…難しいね」
筆者「えーと、ベスト3なら…」
ヴェラーティ「うーん、順番は無いんやけどねぇ…」
実は台数を限定した事が問題なのであって、自分が気になったどの一台のことについても、打てば響くように、ヴェラーティさんは懇切丁寧に説明してくれる。BI・CI・CLASSICAに行ってみようという方には、「臆せず訊け」とアドバイスしておく。
さて、無理を言ってヴェラーティさんに紹介いただいた3台。
■Marco Marastoni(マルコ・マラストーニ)
ヴェラーティ■マルコというのはフレームビルダーとして腕のあるマラストーニさんの息子の名前。彼を自動車の事故で亡くされた後、自分の名前より大きく息子マルコの名前を出すようになってからの自転車なんです。
今では普通になってますが、ラグ(フレームの各パイブをつなぐジョイント)を初めて一体成型で作った人なんです。すごい技術を産んだ人なんだけど、名前を売るとかいったビジネスにはあまり興味無かった職人だから、日本じゃあまり知られてないみたいだけど、いい自転車を作ってますよ。まだ、生きてらっしゃいますよ。
■Stelbel(ステルベル)
ヴェラーティ■これは70年代イタリアで初めてラグ無しのフレームを作った職人さんの自転車。TIG溶接で直接パイプをつないでるんです。その頃のTIG溶接に使う機械は、細かい作業に向いてなかったから、相当の腕がないと不可能だ、ありえないって溶接の専門の人が言ってた。普通にやったらどうなるか?フレームに穴があくはず。なのにこの仕上げの美しさですよ。
90年代には一般化されるようになった技術なんだけど、当時のビルダーはラグでつなぐのが普通だったから、誰もそんなやり方知らなかったんです。
■Cellini(チェリーニ)
ヴェラーティ■これは、ちょっと他のとは違うモノ。昔、アメリカで開催された展示会のために作られた特別な自転車なんです。フレームも、パーツも、仕上げも、全部最高の Made in Italia。言ってみれば、当時のイタリアの自転車作りの技術を結集して、そのレベルを主張する「イタリア自転車界の顔」だったんです。目的は、これを見たアメリカ人たちに「イタリアはスゴイ!!」と言わせること。それだけ。だから、市販はされなかったと思うね。
□ギャラリーの中央に展示された一際輝いているその自転車。ショックを吸収しやすい木製のリム(車輪を形成する外周部分)、メッキ仕上げのフレームとラグ、肉抜きされた最高のカンパニョーロ。それらを写真に収めようと四苦八苦していると、ヴェラーティさん、これは外光の方がキレイに見えるはずと自転車を持ち上げてギャラリーの外に出してくれた。
「大丈夫なんですか?」「まぁ、たまにはコレにも外の空気を吸わせてあげないとね」そう言ってサドルをポンポンと優しく叩くヴェラーティさん。そこには自転車に対する愛着以上の何かが感じられる。
ヴェラーティ■ここにある自転車たちの何がいいかというと、それぞれがその時代と共に動いている感じというか…一般からちょっと突出してしまったというか、時代の先を行った技術を持った職人ビルダーたちのこだわりが見えるところやね。自転車の歴史の中での宝物たちやと思うんです。
そんな技術的な先進をやっときながら、美しいバランスは残している。美しさって完璧なモノの中にこそ入ってくるものかもしれんね。
レオナルド・ダ・ヴィンチさんの言葉でこんなのがあるよ。
『素晴らしい機械も、美しくなければ素晴らしくない』って。一言で全部言ってるわ。
美しさを理解できる動物は人間だけ。だから、美しいものが作れるのも人間だけ。そう思うわ。
ヴェラーティ■昔は人間を基本にしてモノはつくられていたよ。だからこの時代の自転車は人間が乗った状態でとてもキレイに見えます。
ところが、今の自転車は道がちょっとズレてると思うんです、私。軽さとか精度とか機能面ばかりを大切にしていて、モノの中で人間が小さくなってしまっている。モノは良くてもね、私にはそれは面白くない。コンピュータを使って作ればスゴイのはできるかもしれないけど、人間が人間のために作ったものの中にしか美しさは生まれへんのちがうかな。
□BI・CI・CLASSICAの広いとは言えないスペースで、ビンテージバイクたちは、何も語らず、ただモノとして存在している。
その美しさの背景にあるのは、フレーム職人たちが切磋琢磨して生み出してきた技術である。そしてその技術を生み出した職人たちが耳を傾けるのは、その自転車に乗る人間の想いとこだわり。そんな理想的な関係があったという60〜90年代の自転車界。現在とは随分と違う。古き良き時代のお伽話のようでもある。ヴェラーティさんの語る無尽蔵な自転車物語に、へぇ、ほぉ、といちいち感心していると。
「実際、今は、私には面白くないねん。だからね…」
そこにはヴェラーティさんの、含んだような企んだような笑顔があった。
「だから…」の先は次回チャレンジ編に続くということで。
もったいつけながらも、今回は、チャオ。
文・撮影 福田浩一
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(データ)
BI・CI・CLASSICA
〒542-0066
大阪市中央区瓦屋町1-10-7
TEL 06-6777-7070(studio velati 建築デザイン事務所)
営業時間 10:00~19:00 定休日 日 祝日
匿名
2012年2月17日 20:41
すごい・・・。ブルッと来た。
匿名
2014年11月1日 12:50
何かで頭を打たれた感じ