「深化」
13:59 // 3 コメント // MEKKEkun // Category: 飲食 //
今の状況は知らないが、僕が子供の頃には「かくれんぼ」をして遊んだ。
ジャンケンで鬼を決め、それ以外の人間は、各々見つかりそうにない場所に逃げ込み、息を殺してじっとしている。ここなら見つからないはず。見つからないと思う。でも、もし、このまま誰も見つけてくれなかったら…。そろそろ日暮れ。辺りが暗くなってきた。
鬼になったら目を手で覆い、100を数えて目を開ける。当たり前だが誰もいない。自分ひとり、置き去りにされた気分。みんなは、どこかにいるはずなんだけれど。
注意深くあたりを見回しながら、ゆっくりと探索が始まる。
1時間以上歩いたと思う。噂で聞いていた近辺を探し回った。しかし、どうしても見つからない。ある筈のものが無いという奇妙な空白感。どうしたことか…僕のレーダーが壊れているのか、元々ポンコツなのか。
あ、こんな所にも路地が…。
もしかして、ここかも。そんな思いで奥を覗き込むと、遠くに小さな明かり。
人ひとり通れるくらいがやっとの通りを、暗がりの中、足下に気をつけ、そろりそろりと歩いてゆく。
路地の一番奥に辿り着くと、目の前に現れたのが、無数のリベットが打ち込まれた鉄板が折り重なる、ハッチ扉。よく見ると扉の足元あたりに「深化」と文字が殴り書きされている。
ここだ。
やっと、見つけた。
扉の重みを感じながら、ハッチをスライドさせて中に入る。
その店の名前は「深化」。大阪市内の、何処かにある。
中に入ると、そこは、潜水艦の狭苦しい艦内空間だった。経年と海水の塩分によって錆び付いてしまった機器、計器、ダクト、配線、バルブなどが縦横に配置されている。聞こえるのは、ブーンという微かなマシンノイズだけ。
カウンターに座り、物静かなマスターと向かい合う。
ビールを頼むと、程良く冷やされたトールグラスとビールの小瓶。
ここは、カウンターの奥に並べられたウィスキーボトルの数を誇るような店ではない。
ちょっと小洒落た料理を期待しても出てこない。(はずだ)
たくさんの仲間でギャーギャー騒ぐ感じの場所ではない。(たぶん)
普通に美味しい、普通のお酒を、自分のペースで飲み進めてゆける。
あまりにも静かな店内。何かを聞きとろうとしても、今そこにある環境音しか耳に入ってこない。声を張り上げなくても、普通に話せばいい。仲間との喋りも、マスターとの会話も、静かに自然に進められる。
ひとり飲むのがお望みなら、自分自身の想いの奥底へ、思う存分に深化してゆける。
内装が潜水艦である、というだけの魅力なら、一度確認すれば、事は足りる。行った、見てきた、はい終了。もしかすると、東京にも、そんな変わった内装の店はあると言う者もいるかもしれない。
しかし、僕が思うこの店の魅力の中心は、その存在の在り方だ。
ミナミやキタなど、人や車の喧噪うずまく繁華街から遠く離れた、人通りの少ない静かな場所。
潜水艦が敵から身を潜めるかのように深く潜行している。
そして、海底岩盤の中に紛れこみ、ソナー音からも存在感を消している。
「こんな所にこんな店があったら面白いかなぁと思いまして…」
と、マスターは言う。
「あえて奥まった場所を選んだのに、表通りに矢印看板を出すような、中途半端なことはしたくなかったんです…」
そう、徹底して隠れるのが潜水艦。
自分の居場所を示す水面ブイを浮かべるようなアホなことはしない。
ウイスキーロックを頼むと、マスターは四角い氷の角を実直に削る。
ロックグラスに氷が浮上した時に、その姿が美しくなるように。
コツコツコツコツ。一切を忘れ、武士が木仏を彫るかの如く、黙々と。
店のコンセプトを大切にしたいという理由もあり、
テレビや雑誌などのマスメディアの取材は断っているのだと言う。
食べログなどのネット情報にも、もちろん掲載されていない。
ただ、検索すればブログやツイッター等の個人発信のページでは紹介されている。
「コントロールできるものじゃありませんから…仕方ないですね」
マスターは少し困ったような顔で笑う。
しかし、喜ばしいことに、そのどれもが店の詳しい住所や電話番号を出さずにいる。
ここに一度でもやってきた人は、このスタイルの面白さを即座に理解してしまう。
教えるという親切心が時には野暮であり、流儀にもとることを感じているからだろう。
業態としては、所謂『バー』である。しかし、実態としては、稀有な『場』であると思いたい。
隣り合った見知らぬ他人に対してさえ、ご同類の情を抱かせてしまう、「場」の持つ不思議な力。
「深化」が、この場所に姿を現して今年11月で丸8年だという。
そんな店とお客さんとの幸せな関係が、暗黙の内に築かれているからこそ、「深化」はここまで隠れていられたのではないだろうか。
「深化」の存在は、コトの面白がり方を知っている大阪人の底力の現れなのかもしれない。
「深化」は、今夜もひっそりと都会の海の底で潜行している。
たぶん、見つからない。でも、その場所は、いつか行ってみたいという希望の向こうに存在する。
潜水艦も、面白さを共有してくれる誰かに発見されることを、密かに望んでいるはずだ。
文 福田浩一
撮影 今西一寿
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「深化」
浮上時間 : 19:00〜02:00頃 (2:00以降不定) : 水曜定休
最寄駅 : 谷町六丁目
とうじあきこ
2010年7月13日 10:46
行ってみたいです♥
探せるのかな?
至難の業なんでしょうね??
何を頼りに行けばいいんだろう。。。
hook
2010年7月14日 19:18
頼りとなるのは…人と人との繋がりだと思います。
一度行った人が、誰かを連れてきたり、誰かに教えたり。そんでもって、その誰かが誰かを…。
だもんで、誰もが読めるこのコメント欄に、ヒントを書き記す訳にはいかないんです。
ごめんなさい。
直接お会いする機会があれば、喜んで説明させていただきます。ピース。
コメントありがとうございます。
とうじあきこ
2010年7月20日 15:37
頼りとなるのは、、、人と人との繋がり。。。
それってステキですね♥
今年中で絶対に行くと、目標に定めました!!