寺田順三の作り方
11:32 // 0 コメント // soap // Category: アート , 人 //今回は大阪を拠点に活躍するイラストレーター寺田順三さんのところへお伺いし、お話を伺った。
心斎橋の大阪農林会館にカムズ・グラフィックという仕事場を構えておられる。
いきなり話は逸れるが、大阪農林会館はとてもおもしろいビルだ。十数年ぶりに足を踏み入れたが、なにやらおもしろいことをやらかしてやろうという魅力的な人たちの気配がある。
入り口は厳めしいが、中には事務所だけではなくテーラーがあり、カットハウスがあり、あのマルタン・マンジェラのショップがあり、こだわりの本屋さんがあり、大阪で最もコアなアコギのショップも入っている。わざわざ時間を作って訪れる価値有り。おおさかめっけでも今後フォローしていく。
さて、その農林会館の三階に目指すカムズ・グラフィックがある。
お仕事場はこんな感じ。どうもこんにちは。おじゃまいたします。
寺田順三さんのファンは日本だけでなく世界中にいる。多くの人を引きつける魅力はいろいろに語られているが、僕が感じたことを言葉にするなら「懐かしい × 洗練」。ただしその懐かしさは日本的懐かしさではない。どこか遠い国から海を渡ってきた懐かしさだ。
絵を描くのが好きで、できることならそれを仕事にしたいと思う人は少なくない。でも実際に実現できる人は限られている。
というわけで、今回はどうすれば寺田順三さんになれるのかを解き明かしてみる。題して、寺田順三の作り方。
寺田順三の作り方その1 「よく笑う。」
寺田さんはよく笑う。人懐っこくて暖かい笑顔だ。今回インタビューさせていただいている間もその比率は、笑顔3:真顔1くらい。「自分が楽しんでいなくて、人を楽しませる絵は描けない。」と読んでみる。
寺田さん自身はそういう諭すようなことは口にされない。ただ自然体で、こちらの間の抜けた質問にも笑顔で受け答えをしてくださる。(ホント助かりました。感謝。)
寺田順三の作り方その2 「絵の専門教育は必要ない?」
寺田 絵の勉強は特別してまへんねん。兄貴が二人おって、二人とも芸大行ってたんやけど、僕だけは芸大行ったらあかん言われてましてん。お金もかかりますからいうようなことやと思いますけど。で、結局勉強もせんと浪人してて、そやけども絵だけは好きやからなんかしたいなあと思い続けてたんでっけどね。 ま、いろいろありまっけども、結局それしか残ってへんかったみたいな(笑)。
子どもの頃からずっと絵が好きだったと仰った。しかし、絵の専門教育を受けることはなかった。そのことは寺田順三さんの作品になにがしかの影響があるのか? 専門教育を受けていないからこその発想の自由さというようなものはありうるのか? 今、イラストレーターを目指す人にアドバイスするとしたら専門教育の必要性についてどう仰るか? 学校の教育では学べないことは何か? そうしたことを訊くべきだった。反省。
寺田順三の作り方その3 「コンテストに応募する」
寺田 ほんで、浪人中に阪急ファイブのTシャツコンテストいうのがあって、それに応募しましたんや。僕その頃、黒田征太郎さんの絵が好きやったんです。その黒田征太郎さんが審査員してくれてはって、それで賞をもらいましてん。それがもう、うれしかったでっけどねえ。そん時コメントで、「彼の他の作品も観てみたい」みたいなことを書いてくれてはりましてん。で、絵を持ってお会いしに行きました。ものすごい緊張しましたけど。で、絵を見てもらったら、「知り合いがデザイン事務所をやってるから遊びに行き」って言うてもうて、で、そこへ行かしてもらいました。そんなご縁があって、最初の事務所に勤めだしたんです。
黒田征太郎さんから最大限の評価を受けたということでしょうか。
寺田 それは、わかりませんけど、本人としてはものすごくうれしくて、舞い上がってしまうほどうれしかったですねえ。
ひょっとして、その時のコンテストに応募された絵って残ってます?
寺田 いやー、この状態ですから、どこを探したら出てくるか、わかりまへんなあ。(笑) どっかにありましたんですけどねえ。
と言いながら探してくださった。大事にナイロン袋に入っている。「これ、開けるのはダメですよね。」
「いや、かましまへんで、後でたたんでもらえたら。」(笑)
これが黒田征太郎さんが高く評価し、その後の寺田順三さんの人生を決定づけたのかもしれないイラスト。今の寺田順三さんの作風をよく知る人には意外かもしれない。ちょっとシュールでビビッドな色づかいの作品だ。
寺田順三の作り方その4 「自然にそうなるのが作風」
今の作風になったのは?
寺田 元々古いポスターとかもずっと好きでしてんけどね。ただ、僕ら勉強もしてへんし、そんなん描けへんのちゃうかとはずっと思ってた気がします。一番最初に勤め始めた事務所で、ずっと僕がアシスタントしてた先輩が独立される時に一緒に付いて出たんです。そこが、イギリスとかヨーロッパテーマのお店を出すと言うときに、それに合わしていっぺん自分も描いてみようと、それがこういう絵に変わっていったきっかけではありました。
その当時こういうことしていきたいなっていう仕事があって、だんだんそれに近づいていこうと思ってしていったんが、自然にこういう風になっていったんやと思いますけどねえ。
目の前にあるひとつひとつの仕事に応えていかれた結果生まれた作風と言うことでしょうか?
寺田 自分の中では、絶えずそういう風には思ってるんですけどねえ。その仕事のテーマでどういう風な絵を描くかとか、考え続けて、それがそういう風に繋がっていったんやとは思いますけどね。そんなに深く考えてないというとアレですけど、その時のテンションみたいなもんでぱっぱと決める、絵を描き出したらそういうもんやと思います。あんまり考えすぎたら逆に描けへんようになりますしねえ。いろんなタイプがあるんで、僕の場合はそういう感じですねえ。
「作風は狙って作るものではない。」と仰っているのだと思う。あくまで控えめな言葉ではあるけれど。
「消そうとしてもいつの間にか立ち上ってくるもの、それが個性だ。」という言葉を思い出した。これを言ったのは広告の世界の人だから、同列には語れないかもしれない。けれど、作品に向かうときのあるべき姿勢は共通している。
寺田順三の作り方その5 「タバコはやめない。」
時々おいしそうに、タバコを燻らせておられた。
タバコが創作に関係あるとは言わない。ただ、簡単に煙草をやめない人に共通するモノってある。過去の自分と地続きのままいようとするかんじとでもいうような。
寺田順三の作り方その6 「いろいろいっぱいやる。」
芸術家も商業ベースのクリエイターも一流と目される人は、そのほとんどが驚くほど多作だ。寺田順三さんもここでは紹介しきれない多様な作品群を創作され続けている。いくつかご覧いただきたい。
木の造形に紙を貼ったハンティング・トロフィー。思いきった単純化が動物の形のおもしろさをもう一度教えてくれる。
punch-out animals 厚紙を組み立てて作る動物のオブジェ。
おおさか★めっけ、第一回目の記事で紹介したBAG'n'NOUNとのコラボ作品。寺田順三さんオリジナル柄のトートバッグ。こちらに広げた写真。
こちらも寺田順三さんオリジナル柄のスカーフ。
これはおもしろい。最初なんだか分からなかった。いろんな柄を組み合わせて使う木のブロック。
気鋭のペーパークラフト作家、和田恭郁さんとのコラボ作品。写真はまだ試作段階のため無地だが、これに寺田さんの彩色がのる。
紙のリング。こちらも和田恭郁さんとのコラボ。この夏に発表される紙のジュエリー。なんと、一枚の紙からできている。
アニメ「カルルとふしぎな塔」
この秋からNHKキッズステーションで連載が始まるアニメーション。寺田さんがキャラクター設定と物語の舞台を作られている。実はこっそりテストピースを覗かせていただいた。トゥーンレンダリング3DCG、つまり、従来のセル画アニメのような絵なのに3Dで動くという新しい技術が採用されている。寺田さんが生み出した猫(?)のキャラクター「カルル」たちにはぴったりの手法だ。とてもかわいい。特にファンにはたまらない作品になるだろう。乞うご期待。
新プロジェクト進行中
これだけでもたいへんな仕事量だが、さらに、家具を製作する計画も進行中だと明かしてくくださった。これには唸った。寺田さんの色使いとテキスタイルデザインのセンスが家具になる。これはこれまで以上に魅力的なものになると直感した。勢い込んで「その過程も取材させてください!」と頼み込んだ。笑顔で快諾。さてますます楽しくなってきた。おそらくは来年の春頃までに2〜3回、その制作過程をお届けする予定だ。どうぞご期待いただきたい。
追記
寺田順三展が2月3日(木)〜20日(日)まで、京都駅ビル7階の美術館「えき」で開催されている。
http://www.wjr-isetan.com/kyoto/floorevent/index_7f.html
2月13日(日)午後2時からは寺田順三さんのギャラリートークもある。おおさかめっけもおじゃまさせていただきたいなと調整中。
ーーーーーーーーーーー
寺田順三 プロフィール
イラストレーター
1961年生まれ 大阪府出身
2000年カムズグラフィック設立
ほとんどのモノは通販サイト カムズ・マートで手に入るようだが,一部扱っていない。入手方法をもう一度確認して後日掲載する。しばしお待ちを。
文 斉藤五十八
撮影 今西一寿
アシスト 中野かおる